昨年末の『新語・流行語大賞』に“薬膳"がノミネートされ、最近では「若者の間で漢方薬への関心が高まっている」との話題も注目された。とはいえ、日本での医療の中心といえばやはり西洋医学。漢方などの東洋医学には「即効性がない」「うさんくさいのでは?」と見る向きもある。そんななかロート製薬が、中国をはじめとして東アジアを中心に伝統的に使用されてきた「冬虫夏草」のサプリメントを販売するという。その背景にある、日本人の健康意識の変化とは?
【画像】虫なの?草なの?「冬虫夏草」とは…
■“薬膳"が流行語ノミネート、一方で懐疑的な声も…
働き方の変化や医療費高騰、ネットに溢れるヘルスケア情報などにより、健康への意識が高まっている近年。その一方で、厚生労働省の労働安全衛生調査によると、強い不安やストレスを抱える人は10年前より約1.3倍、睡眠不足を感じている人は約1.6倍に増加しているという。そんな現状を反映してか、症状が出る前に備える予防・未病という考え方もじわじわと浸透。2025年の『新語・流行語大賞』に“薬膳"がノミネートされたのも、そんな健康志向の高まりが背景にあるといえるだろう。
とくに女性は、月経など特有の不調への対処や美容の観点から、予防・未病対策として“食"への意識が高くなっている様子。ロート製薬D2C事業部部長の奥野久仁子さんは、「四川省発祥の麻辣湯などの薬膳料理や、素材の味を生かしたシンプルなせいろ蒸しが流行しています。ブームだけでなく、食で体の調子を整えるという意識が拡がり、日々の食事に気を遣う人が増えていると感じています」と話す。
一方で、サプリメントやエナジードリンクを摂取する機会は増えてはいるものの、薬膳に関しては「どこで流行ってるんだ」「そんなの効かないだろう」といった疑念の声もちらほら。最先端の医学への信頼は厚いが、漢方など東洋医学には懐疑的な見方をしている人も。もしかすると、若者世代のほうが抵抗なく受け入れているところはあるのかもしれない。
そんな中、ロート製薬では、創業147年を迎える東南アジア最大級のヘルスケアカンパニー・余仁生(ユーヤンサン)と協業し、秦の始皇帝や楊貴妃も愛したとされる「冬虫夏草」のサプリメントを3月から発売するという。
冬虫夏草とは、昆虫に寄生して育つキノコの一種で、その種類は400以上にも及ぶ。その中でも、標高3000m超のチベット高原に生息するオオコウモリガに寄生して育つ冬虫夏草は、古来より中国で滋養強壮や活力維持の漢方薬として珍重されてきた。ロート製薬が発売する『余仁生 冬虫夏草』も、そのチベット高原産と遺伝子類似性99%の菌糸体を使用。品質の安定性と持続可能な生産を両立させるために、自然環境に左右されない培養技術で生産しているという。
しかし、目薬をはじめ医薬品やスキンケアなど、最新の研究を生かした商品を開発・販売してきた同社が、なぜいま冬虫夏草に着目したのか。
「コロナ禍をきっかけにセルフメディケーションや予防・未病への関心が高まり、様々な業界が関連商品を提案していますが、まだまだ需要に追いついていないという印象でした。当社は薬に頼らない製薬会社になることを目指して、食の力で健康をサポートする事業にも積極的に取り組んできました。健康のための食の需要が高まっている今、当社の考えに近く、中医学の考えを元にヘルスケア事業を推進しているユーヤンサンとの協業を決めました」(奥野さん、以下同)。
■東南アジアで人気の“冬虫夏草"、そのまま食べると「風味は香ばしく、食感はエノキみたい」
中医学とは、中国の伝統医学のこと。西洋医学が症状の原因となる病巣や病因を取り除くことに重きを置くのに対し、中医学は身体全体のバランスを重視し、未病の段階で生活習慣や体質の改善を行うのが特徴だ。この医学体系は中国から東アジアへと拡がり、日本では漢方や鍼灸、韓国では韓医学として発展。それら全般が東洋医学と呼ばれている。
東南アジアでは、西洋医学と東洋医学、それぞれの病院が存在。突発的な症状が現れたら西洋医学の病院へ、体質的な改善は東洋医学の病院へと抵抗なく使い分けているという。このように、日々のケアで自分の体調を整える意識が根づく東南アジアにおいて、ユーヤンサンは最大級のヘルスケアカンパニー。数ある商品の中でも、冬虫夏草は現地で売れ筋なのだという。
「現地では、昔はお正月やお祝いの席で炊き込みご飯などの料理に用いられることも多く、とくにご年配の方にとっては非常に馴染みのある食材だそうです。現在もレストランで薬膳料理やお粥として提供されることはありますが、とても高価なのでなかなか口にすることはできません。食の選択肢が増えている現在、古いものはシュリンクしがちとはいえ、食養生の考えが根付く東南アジアでは若い世代もサプリメントなどで摂取する人は多いと聞きます」
ちなみに、冬虫夏草をそのまま食べると「風味は香ばしく、食感はエノキみたい」なのだそう。
そんな冬虫夏草だが、日本では「見たことはないけれど、聞いたことはある」という人は意外と多い。若い世代では、人気アニメ『薬屋のひとりごと』に登場したことで知った人もいるだろうし、ミドルシニア世代以上であれば、かつて中国の五輪選手団が常用して活躍した…というニュースを耳にしたことがあるかもしれない。
しかし、いくら薬膳や漢方が注目を集めているとはいえ、東洋医学の中には「うさんくさいものもあるのでは」と考える向きも少なからず存在する。発売はロート製薬にとってチャレンジングなことではないのか? そう疑問を呈してみると、「今、米国や欧州など、世界的にも漢方や伝統薬、ハーブ市場は拡大。日本でも日常的に取り入れたいというニーズが高まっています。そもそも、日本にも昔から体に良いとされる自然由来の食材は広く出回っているので、馴染みがないことはないと思います」と奥野さんは胸を張る。
たしかに、高麗人参や黒にんにくを使った商品などはスーパーやコンビニにも売られている。ほかにも、地域ごとに伝承されている生薬は多数ある。ロート製薬の人気ブランド「メンソレータム」の製品もまた、植物由来の成分を多く含む。「植物の生命力の恩恵を受けられるようなサイエンス」は、身近なところに数多く存在しているのだ。
■不調でも頑張らねば…現役世代こそ「薬に頼らない」体づくりを
そんな日本において、ニーズの高まりとともに「冬虫夏草を広い世代の人たちの生活に取り入れてほしい」と奥野さん。中でも、とくに「現役世代にリーチしたい」と語る。
「年齢的に感じやすい不調や体力が急降下が起こっても、頑張らなければいけない現役世代。即効性を求めることも多いですが、近年はサプリメントの市場規模が年々拡大していることからもわかるとおり、毎日コツコツ続けることの重要性が浸透してきました。一過性のブームではなく、生活の中にサプリメントを取り入れる方が増えていると感じます。ユーヤンサンブランドを通して、足りないものを補うだけではなく、体本来がもつ力をサポートし、より前向きに健やかに過ごすためのセルフケア習慣づくりに寄与したいと考えています」
発売前に国内で先行モニターを募集し、約6500名に約1ヵ月間試用してもらったところ、アンケートに回答した1036名のうち、30日間の使用を通じて変化を感じたと答えた人が約3割いた。食品で短期間に変化を感じるというのはなかなかないことだが、今後、その魅力を価値観が違う人たちに向けて、どのように浸透させていくのか。
「当社は世界で『メンソレータム』や『肌ラボ』を流通させており、各国の特色に合わせたブランド展開をしています。今回はその逆。自然の素材を活用した高品質な商品を、ユーヤンサンが150年近くにわたって作り上げてきた“健康に寄り添う文化"と共に日本に伝え、皆様にお届けしたいと考えています」
さらに、同社ではレストラン運営など食事業も展開していることから、これをきっかけに「医薬品やスキンケアだけでなく、“食のロート"という一面も広めていきたい」とのこと。今後は、食とスキンケアの掛け合わせなど、得意とする独自の研究・開発で「新しい提案もしていけたら」と目を輝かす。
人生100年時代でありながら、ストレスや睡眠不足を抱える人が増加する現代。病気となれば最新医療の手を借りるのはもちろんだが、そもそも病気にならないのが一番だ。同社が目指すのは、「薬に頼らない製薬会社」とのこと。様々なヘルスケア情報や商品があふれる今だからこそ、我々自身も薬に頼らない体づくりを考えるべき時期なのかもしれない。
(文:河上いつ子)
(提供:オリコン)
1月23日 9時10分配信