右近&元太、声優挑戦で絆生まれる

 ディズニー史上、最も温かく切ない“兄弟の絆"の物語『ライオン・キング:ムファサ』が12月20日(金)から劇場公開される。名作『ライオン・キング』の“はじまり"の物語を描く今作の超実写プレミアム吹替版において、主人公・ムファサ役を演じる尾上右近、後にスカーと呼ばれるヴィランとなるタカ役の松田元太(Travis Japan)にインタビューを実施。この日、初対面となった2人だが、緊張のオーディションや苦戦続きだったという収録を和やかに振り返った。

【動画】息ぴったり!『ライオン・キング:ムファサ』劇中歌を歌唱する尾上右近&松田元太

■「受からないものだと…」オーディション合格に驚き

――『ライオン・キング』30周年の機会に、新たなオリジナルストーリーで超実写版が制作されることとなりましたが、アニメーション版『ライオン・キング』に対しての印象、思い出やエピソードなどを教えてください。

右近:僕は32歳になるのですが『ライオン・キング』とほぼ同世代ですし、ともに育ってきた世代という感覚がすごく強いです。『ライオン・キング』は継承の意味合いも強い作品。僕自身も歌舞伎という伝統の世界で受け継がれるものの意味合いと向き合うことが多いんです。ムファサの人生は、1人ぼっちの孤児から始まり王になっていく姿を描いていて、僕も歌舞伎俳優の家に生まれたわけではない人間なので、オーディションを受けさせてもらう段階から、自分がやらせてもらうことが、意味があることだという自負を持って臨みました。自分の中で作った責任感みたいなものの中で取り組ませていただいています。

松田:僕もアニメーション版『ライオン・キング』も大好きですし、やっぱりディズニー自体が大好き。そのなかのひとつである『ライオン・キング』は仲間の大切さ、兄弟の絆と友情、より熱い愛情みたいなのものを感じます。この作品はライオンを通してですが、万国共通の人間の愛を大切に描かれている作品。ひとつひとつ大切に、勉強させていただきながら『ライオン・キング』の世界に自分がいるんだなと感じながら、トライしました。

――オーディションの合格はどういったシチュエーションで聞いたのでしょうか。

松田:僕はツアー中にメンバーといて、そこで『合格しました』と聞きました。今までもディズニーのお仕事にいつか挑戦してみたいな、という思いもありましたし、声優さんのお仕事も挑戦したいと強く思っていたので決まった時は、すっごくうれしかったし、やっぱりメンバーが喜んでくれているのもうれしかった。解禁になった時にファンのみんなも喜んでくれて、やりがいを感じました。皆さんにもしっかり見届けてほしいな。

右近:僕はちょうど大好きなカレーをちょっと食べに行っていて。ちょうど夕方ぐらいかな、人の行き来も割と多い広〜い建物の中で、合格を知って、つい『あ!』という声が漏れ、それが建物全体にエコーで響きました(笑)。もちろん家族には報告して、解禁後はいろいろな人が喜んでくれました。はっきりとオーディション受けるということも言えなかったのですが、ディズニー声優を経験された尾上松也さんと松たか子さんには唐突にならないように『オーディションを受けられた時はどんな感じだったのですか』とやんわり探りました(笑)。情報解禁のイベントが終わって帰ってきた時には松也さんから『これでお前もディズニーファミリーだな』ってLINEが入っていて。松さんには改めて実は決まりましたっていったら『よかったね、松也さんのおかげってことにしよう』と(笑)。そういうメッセージをもらっていることを知っているかのようなお返事をもらって…先輩たちにも喜んでいただけました。

――松也さんとの絆も感じますね。

右近:松也さんが経験したことを僕が後からやらせていただいて、やっぱり同じ尾上という家の中で育ってきてるし、見習うところいっぱいある。僕にとって本当に兄貴のような存在でもあります。

――オーディションは、なかなか受ける機会もだいぶ少なくなってきたと思うのですが、だからこそ、緊張や普段とは違う気合の入り方もあったのでしょうか。

右近:僕はオーディションの経験はほとんどないんです。 歌舞伎もオーディションはないので、いつもオファーをいただきます。だからこそ『オーディションってこういう感じなんだ…!』と思ったし、絶対に受かりたいと思って準備をして、受けている最中もなんだかいける気はしたのですが、帰り道にはもうダメな気がしてきて…(笑)それから結果が来るまでの日々はもうずっとモヤモヤ。『ムファサ』の広告が流れた時には目そらし…僕じゃない人となって決まってから観に行った時の自分の気持ちまでちょっと予想して、落ち込むリスクマネジメントまでしたくらい。オファーをいただくことがやっぱり僕1番幸せな瞬間だと思っていたのですが、やっぱりオーディションを経ての決定は、普通のオファーよりももう一発うれしさが違う。本当に選んでもらったという気持ちが強い。

――でもリスクマネジメントまでされていたとは。

右近:落ちた時にどんな気持ちになるか想像できないですから。スカーみたいになっちゃうかもしれないし(笑)。

松田:僕はオーディションって受からないものだと勝手に思っていたんです。今までのドラマのオーディションでは、どこかで『ダメなんだろうな』とか、『監督、全然こっち見てくれてないじゃん!』みたいな悔しさも覚えていたし、できる準備はそこまでなかったにせよ、自分なりに歌はやっぱりずっと聴いて。音源をなぞりつつ、タカに寄せられたらいいな、とか、自分なりのディズニー感といいますが、ちょっと伸びが良い感じにしよう、とか、ちょっとライオンっぽさを入れてみようかな…みたいな。正解ではないと思うんですけど、自分なりにできることは全力で詰め込みました。合格と聞いた瞬間は『合格ってあるんだ!』『受かることってあるんだ』と、自信にもなったし、今後もちゃんと向き合いながら自分でステップアップしていきたいと思いました。

――また次にオーディションを受ける時は、今度は自信を少し持ちながら臨めそうですか。

松田:いや、でもちょっと怖いです。できるならなるべくオファーしていただけるくらいの実力を持てるようになりたい(笑)。こう言っておきながらすいません。オーディションはやっぱり怖いです(笑)。

――ご自身が起用された決め手のようなものはお聞きしていたのでしょうか。

右近:もう決まったことがすべてだし、うれしい気持ちがあったんで、決め手を聞いちゃうと、これをハズしていた時に、がっかりさせてしまうかもしれないことにつながると、おそらく潜在的に感じたので、私は聞いておりません(笑)。

松田:同じくです。怖いです(笑)。

右近:怖いよね、決め手となったところをハズしていたら、もう、自分である意味なくなっちゃうから、明日から生きていかれなくなっちゃう(笑)。

松田:テレビでけんけん(右近)とキロス役の渡辺謙さんがトークをしているのを見て、謙さんも本国のオーディションを受けられて、本国とディスカッションがあったと聞いて『そうだったんだ!』と。自分で言うのもおかしいかもしれないですが、タカを演じさせていただきましたが、本当に厳しいんだ、奇跡だな、ありがたいな、とより一層頑張らないといけないなと思いました。

――お2人はすでに仲良しですが、初対面の印象はいかがですか。

松田:僕はもう会う前から大好きでした。会ってからも本当に優しくて兄ちゃん。ムファサとタカのように勝手ながら僕もこんなお兄ちゃんが欲しかった!と思うようなお兄ちゃんに出会えました。きょう1日お仕事として取材で一緒に話していますが歌舞伎界のお話や取り組み方も『そうなんだ!』と勉強しながら楽しく過ごさせてもらっています。

右近:この業界では“初めましてでもお互いのこと知っている"という、面識はないけどお互いに認知している関係値の方が多いですけど、げんげん(松田)のことももちろん存じあげていましたし、本職のすばらしさと、キャラクターの愛くるしさが奇跡のバランスの方、天才だと思っていました。お会いしてその人柄に触れて、こうやって一緒にやらせてもらっている中でも、月日はあんま関係ないんだなと感じますし、ところどころでふざけてるな〜ってなんとなく感じるようになりました(笑)。

松田:あ!まずい!(笑)

右近:それはそれでいいじゃない(笑)。でも、こうして取材も2人で受けさせてもらうことで、めちゃくちゃ救われているし、お互いのことを知り合えることも貴重な時間をもらっています。

――お会いする前後でのギャップみたいなものは特に感じませんでしたか。

右近:全然。するっと仲良くさせてもらっています。

松田:想像より優しかったです。

右近:どういうイメージだったの?

松田:いい意味でふざけない方なのかと思ったんです。

右近:それはよく言われるんです、でも笑いは好きです。

松田:合わせてくださるので、すごく楽しいです。

――実生活では松田さんはお兄さんですが、自分の理想とするお兄ちゃん像とご自身は違いますか。

松田:はい(笑)。僕はなにもできてないお兄ちゃん。だから(右近さんは)かっこいいってなっています。僕も理想のお兄ちゃんになりたい気持ちはあるんですが…けんけんの余裕があって、カッコいい。

右近:でも絶対に理想のお兄ちゃんとしての素質はありますよ。でも自分で言うタイプじゃないんですよね。逆に僕はどんどん言うタイプです。「俺すごいぞ」って(笑)。僕は実生活は弟なので完全に末っ子気質です。後出しじゃんけん乗っかり上手(笑)。

――もしお2人で冒険にでるならどんなことしたいですか。

右近:山と海ならどっちが好き?

松田;なんでも好きなんです、もう逆についていきたいですね。

右近;それで言ったらやっぱりアフリカですよね。

松田:僕、アフリカに行きたいって、ずっと言っているんですけど、アフリカに行きたいと言う芸能人の方、初めてお会いできました!

右近;じゃあもう行くしかないですね。誰か!私たちをアフリカに連れて行ってくれ!大自然に放り投げてくれ!(笑)。アフリカに行ったら、なんて俺たちはちっぽけなんだ…と大自然を目の当たりにして落ち込むと思うんですよ。でも、そういう落ち込み方っていうのはとてもいいと思う。行って体感したいですね。げんげんとアフリカに行ったらなんかピンチで笑っちゃうんじゃない。

松田:『もしかしたら食われるかも!やばくないですか!?どうします!?』みたいな感じでいっちゃうかもです(笑)。

■尾上右近、松田元太がヴィランに転じる声は「綺麗な水色がダークブルーに…」

――右近さんは、松田さんとタカがリンクする部分をどこかで感じましたか。

右近:やっぱりドンズバのセンス。人としての芯の強さと、男の子らしさ、でもその裏にある優しさと愛くるしさ、かわいらしさっていうところはタカに近いものがある。でも、僕がタカのことをお話するなんておこがましいぐらい、タカに対する愛がめちゃくちゃ深いこともきょう一緒に話を聞いていて感じました。

松田:うれしいです。タカは王様を目指すというより王の家系のなかで、父の教えを守りながら育ってきた。ムファサと出会い、ムファサに対してリスペクトもたくさん見つけていく。色んなことを葛藤していく中で、自分とも思考が似ている部分、リンクする部分がちょくちょくあったりもします。こういうこと考えているのだろうなとタカの表情とか目つきも含めて感じ取れるから、スカーになる直前、スカーになっている最中のタカの姿は結構、苦しかった。タカを演じた1人として1番タカの味方でありたいという気持ちもありながら、タカの優しさやムファサへのいろんな思いが自分の中でぐわ〜ってかけ巡りました。

――ムファサと右近さんがリンクするところはありましたか。

松田:「俺が王だ!」っていうより、本当に座長というか、みんながついていきたくなるし、色々教えていただきたいなと思わせられる姿、言葉、行動のすべてがやっぱりカッコいいなと尊敬が生まれました。会ったばかりなのに、僕自身も大好きになりましたし、タカもムファサのことも大好きなので、そこはすごく同じ感覚です。

――右近さんは演技のアプローチについて前作までムファサを演じてきた大和田伸也さんから受け継ぐ部分はあったのでしょうか。

右近:今回の吹替えでは大和田さんが作り上げた『ライオン・キング』に登場するムファサにつながるようなイメージを持って臨みました。立派な大人の男が若い時はどうだったのか。そのプロセスを見せるのが今回のムファサの役割だと思っているので、未完成なムファサが完成したムファサにつながっていく点線は見える…といったイメージでやらせてもらいました。

――松田さんはタカがスカーというヴィランになっていく過程を魅せる上で二面性をどう演じましたか。

松田:スカーになった瞬間も大事ですが、タカがスカーになる前、タカである時の時間を改めて自分の中で解釈して落とし込んで声に乗せる作業はしました。自分の中で、タカはこういうライオンだろうなとか、こういう思いで今こう過ごしているんだろうな、と台本を読みながら演じてみたり。スカーになっていくポイントは徐々にジワジワグツグツとくるものもあれば、コロッといくような時もある。その恐ろしさ、感情の変化を大事に演じたい、声にしたいと思いましたし、スカーになる瞬間は命がけの思いがありました。

――実際の収録はいかがでしたか。新鮮に感じたことやディレクションで印象に残ったことはありますか。

松田:やることがすごくたくさんあるんだなと勉強になりました。リップを合わせなきゃいけないタイミングもそうですし、自分の発した言葉を一度聞き直すと、自分が思っていたつもりとはまったく違うように聞こえたり…。『なんで俺はできないんだ、全然ダメじゃん』と、すごく悔しい瞬間がめちゃめちゃあって。スタッフさんにも色々サポートしていただきながら、時間はちょっとかかってしまったんですけども、トライして、当たって砕けて。砕け散って。1回ぐしゃぐしゃになって。経験したことないっていうのもありますけど、でもそれは通用しない。観てくださる方もたくさんいらっしゃるし、絶対にいいものを届けないといけない責任もあると思うので果たせていたらいいな。すごく難しかったですけど楽しかったです。

右近:僕もまさに当たって砕けろというか、砕けてやり直してっていうことしかやりようがありませんでした。げんげんが言ったように、リップを合わせなきゃいけないのはもちろん秒数が決まっているので、秒数に追われて、画を見る余裕は全然なく、数字を見ちゃうことが多かったです。なので、気持ちを出したり、力を抜いて演じることができない時間がg長く続いてしまいましたが、とにかくスタッフの皆様には根気よく付き合っていただきました。僕がムファサで良かったと、呼んで良かったと思ってもらいたい気持ちがすごく強かったので、どうにかしてやり遂げたい一心でした。

――演じるのは人ではなく、ライオンってところにも難しさはありましたか。

右近:それもめちゃくちゃありました。いきなり吠えたりもするから…。そうだ、ライオンだった!と(笑)。

松田:吠えるのは難しかったです。意外と息を音にすることは戸惑いました。マイクにバサッて息吹きかけると割れちゃうこともあるし、ちょっと外して…技術面も勉強になりました。

右近:だからこう考えると自分の決め手はきかなくてよかったです(笑)。プレッシャーで耐えられなかったと思います。

――お互いの演じられる声を聞いた印象とかはいかがでした。

右近;雄々しさ、野性味のような強さ、荒っぽさも感じるし、でも愛くるしさがあり、温もりもあるし、人懐っこさみたいなのもやっぱりある。げんげんの声の魅力とタカの魅力が重なっている状態を部分的に聞くことができたことはムファサをやらせてもらう上ではすごく救いになった。兄弟の支え合いって、ただお互いにサポートし合うだけじゃなくて、影響を与え合うってことが支え合うってことなんだな、とより実感しました。

――ヴィランであるスカーになった松田さんの声はいかがでしたか。

右近:僕はめちゃくちゃびっくりして。ムファサが怒りよりも落ち込むっていう気持ちがよくわかった。お互いに悪いことしてないからこそ、結構リアルですよね。関係性をすごく感じさせてもらった。綺麗な水色がダークブルーに、冷たい色になった感覚でした。

松田:うれしいです。けんけんの声は温かさと、優しさと、勇敢さと…どこかに抱えている、誰にも言わない悩みみたいな感情もありながらも、周りのみんなを優しく包み、支える、リーダー気質だけど、別に自分からは名乗り出ない1歩引いたカッコよさがある。タカに対してのアプローチの仕方もすごく優しく、その声だけでタカとしても、そして松田自身としても安心感がありました。そこに救われながらも、最初は『あ、けんけんの声だ』と思っていたのがその脳みそがなくなって『そういえば、けんけんの声だった』と思うくらい、うわ〜、ゾワ〜ってする感じがありました。勉強にもなったし、刺激もいただけて僕もより一層、タカを頑張ろうと思えました。

――では、収録を終えた時の達成感はすごかったんじゃないでしょうか。

右近:でも、終わったらもう一回最初からやりたいと思ったんです。最初からやりたいし、もっとアニメーションの声優もやってみたいと思いました。

松田:僕も思いました!

右近:歌舞伎をやっていても、踊りを踊っても、舞台や映像の仕事をさせていただいてても、空気や自分の気持ちがじわっと来た瞬間は共通で持てるし、そこを良かったと言ってもらえることが結構ある。今回もちょこっとそういうものも持てた気がします。手応えまでいっているかはわからないですが自分なりにはやりきったと思います。

松田:手応えと不安が結構半々ぐらいではあるんですけど、確実に100パーセント以上の力でトライできた。自信もって自分に“お疲れさまでした"と言えますし、もし他の作品にまた声で携われるタイミングがあったなら、今回の経験を活かしてちゃんとステップアップしたいですね。

(提供:オリコン) 12月16日 15時00分配信

『ライオン・キング:ムファサ』超実写プレミアム吹替版に出演した松田元太、尾上右近 撮影:山崎美津留(※崎=たつさき) (C)ORICON NewS inc.

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